メタファーの境界

30代になった女の日記です。日常の肥溜めの上澄みみたいな感じ。

彼氏が北海道の転職に揺れる05

北海道の内定先から最終的な待遇の連絡が来た。「最初に提示していた年収額面からマイナス100万」とのことだった。金額自体は彼氏にとって許容範囲らしい。でも一度揉めた会社だ。うまくやっていけるか?結局すぐに辞めてしまうのでは意味がない。しかも場所が北海道だ。地理感覚のないところで再就職先を探すより、今のところに留まって、じっくり考えた方がいいのではないか。

 

彼氏は普段滅多に連絡しないご両親に連絡を入れていた。彼氏のお母さんはどうしたらいいか結論は出さなかったようで、「お金困ったら連絡して」としか言わなかった。しかしお父さんは「ひとまず北海道の会社に行け、無職にはなるな」と言っていた。お父さんは一つの会社で勤め上げて、もうすぐ定年退職を迎える。彼氏は現職場が4社目。きっと転職を繰り返す息子の気持ちはわからないのだろう。「お前が夢を叶えるのがお父さんの夢だから!」というSlackの文面からは、自分の気持ちを伝えるのに必死で息子の話はよく理解しようとしていないことが窺い知れた。

 

私も自分の家族に事情を電話した。彼氏が転職で困ったことになっていること。彼氏が弱っていて、どうしたらいいかわからないこと。私の母親は「そんなの、北海道の会社に行ったらすぐ辞めるに決まってるでしょ!」と一蹴した。

「自分の子供にそんな信頼できない会社に行けなんて、言える訳ないでしょ。大阪に残って転職活動やり直したらいいじゃない。お盆も挟むし、どうせすぐには決まらないんだから、ゆっくり次を探したらいいでしょ」との意見で、私と一致した。

ちなみにこの時父親は家にいなかったので母と姉だけの意見だった。しかし彼氏を勇気づけるのには持ってこいの威勢の良さだ。私の家族は職を失うことに慣れている。こういうことには免疫がついていて、どうということもない。

 

いいことを思いついて、「彼氏にそれ直接言ってやって」と母親にスマートフォンの電話口で言った。同時に手元に置いといたMacでDiscordから「私の家族と話さない?」と彼氏にメッセージを打つ。「なんできゅうに」と彼氏から返事が来たところで、Discordを通話にした。そしてスマートフォンの親とのLINE電話をスピーカにしてMacに向けた。

 

「もしもし、彼氏、聞こえる?」と混乱する両者をつなげる。彼らは初対面も済ませていない。でも「勝手に転職のこと私の家族に話しちゃった!ごめんね!」と言って、母親がさっき私に言ったことを直接彼氏に伝えてもらった。スマホ越しにパソコンに音声拾ってもらうの、その逆もうまくいくかわかってなかったけど、ちゃんとできた。上手くいった。よかった。

 

一度彼氏を殺してしまって反省したことの一つは、周りを巻き込まなかったことだ。問題を当事者同時で抱え過ぎてはいけない。広く共有することで、負担が軽くなることもある。協力してくれそうな人がいたら、恥ずかしがらずに助けを求めた方がいい。一人で悩んではいけない。

 

通話が終わって母親が「はーすごい時代だねえ」と謎の関心をしていた。ありがとうとお礼を言っておいた。彼氏からも「ありがとう」とメッセージが来た。やってよかったなと思った。 そして数日後、彼氏は北海道の会社に内定辞退のメールを入れた。