メタファーの境界

20代女の日記です。日常の肥溜めの上澄みみたいな感じ。

死んだ彼氏の話

彼は外国人でコンテンポラリーダンサーだった。実は既婚者で、私たちは不倫の関係だった。彼らは話し合い上で、『離婚』しており、奥さんとは『シェアハウス』している、というのを初対面の時に言われた。「恋愛がしたい」と。奥さんは日本人で、彼は仕事でビザが出ないので日本に滞在するには日本人の配偶者が必要だったし、奥さんは結婚してたら信頼もあるし、外国人の旦那さんがいたらバリューになる、みたいな感じ。奥さんは奥さんで彼氏がいてて、彼氏と奥さんとその彼氏で会ったこともあるらしい。私も彼氏と奥さんで一度食事に行った。ちなみに奥さんもダンサーなのでその点で彼は奥さんと家の外でも付き合いをしていた。妻や友人や同志とか、そんな日本語では表せない関係で奥さんを愛してた彼のことも大好きだった。


彼氏ができたこともほぼ人に話していなかったので、彼氏が死んだこともあまり人には話していない。私の知り合いで詳しく話をしたのは両親と姉、ナースをしている小学校からの友人一人、大学時代の同期一人。あと、彼の職場に乗り込んで情報を共有した。プラス、彼と共同制作していた人と、彼の実家まで行ってテキサスの家族と。これは彼の弟がメモリアルサービスっていう向こうの文化で故人を偲ぶ会みたいなのをやるというのをフェイスブックに書いてて、「私も行って良いですか?」って訊いたら「もちろんおいでよ」と言ってもらえたので行ってきた。英語できないけどグーグル翻訳を嚙まして会話した。彼のお母さんとメールアドレスを交換して、いまメル友みたいになってる。彼の子供の頃の写真とか送ってくれる。すごく可愛くて、幸せそうで、泣ける。


どうしようもないことなんだろうけど、このトピックについて話すと何かしらチクっと刺さることを言われてしまう。予想してたけど父親は結構ひどかった。父親のいとこも自死していて、「俺も経験してるから」ってドヤ顔されたり、新興宗教を信仰しているので「自殺はいけないことだ」という話が始まったり。「話さない方がいいかな」というのももちろん考えたけれど、私の人生におけるとても大きな出来事であることには疑いの余地がなかったので実家まで出向いて話してきた。私たちの間で不倫という感覚はゼロだったけれど、不倫の事実には変わりない。これに対しては責められなかったのでほっとした。


言われてチクっとくるのは「働いてるんだったら気がまぎれるだろ」「結婚してなかったんならまだマシでしょう」「どうしてテキサスまで行くの?向こうの家族が迷惑じゃないの」「彼と奥さんは普通に夫婦だったけど(お前は体だけの関係だろう?)」とか。あと、共同制作者の女性に今度会うのだけど、「彼女の作品の鑑賞をする」というお誘いをもらっていて、ちょっと何だかなあとなっている。多分お金払う形式で、鑑賞というか参加する形。彼氏がこの人に私たちの関係をどう話していたかはわからないのだけど、マウンティングされているような気がしてしまう。


彼が私にこの人との作品作りのことを嬉しそうに話すので、彼が彼女を信頼しているのはとてもよくわかっていた。だからどうしても接触したくて、彼と彼女の作品を所持してるアート系の施設まで行ってデータもらいに行って、そこで彼女の連絡先を手に入れた。それでコンタクトを取ることができた。ウィキペディアの項目があるような方なので、私みたいな一般人が会いたいって言ってくることに対して警戒されているのだろうか。


私は彼の死を共有できる人が欲しかった。彼の話をすることで会いたい気持ちを少しでも埋めようとしていた。彼の職場に乗り込んだのも、テキサスに行ったのも、アート系の施設まで行ったのも。でも、彼と私の親密具合を知っているのは彼と私だけだ。他の人から見たら私が悲しんでいるところは奇妙に映るんだろう。そもそも彼女かどうかも怪しい女な訳だし。彼は白人で4ヶ国語話せて仕事ができてワールドワイドに活躍するダンサーで世界各国に友人がいる。そんな彼が仲よさそうに見える奥さんをほっぽってこのブスな一般人と付き合ってる訳ないだろ、みたいな見方の方が自然だ。


もうすぐ共同制作者の人との約束の日がやってくる。それに向けて1000ページぐらいの長い小説を読んでて、気が滅入る。参加する前から「また嫌なこと言われるんだろうな」って思ってるけど、ここで引くのは何か違う気がする。彼に会いたい。